鉢呂吉雄経済産業相は10日夜、東京電力福島第1原発事故の現場周辺を「死の町」と表現し「放射能をうつしてやる」などと記者に発言した責任を取り、野田佳彦首相に辞表を提出、受理された。野田内閣は発足後わずか9日目で主要閣僚が辞任する事態となり、政権は大きな打撃を受けた。
政府は10日夜の持ち回り閣議で、経産相の臨時代理に11日付で藤村修官房長官を充てることを決めた。ただ、臨時国会召集までには専任の経産相を置くべきだとの声もあり、直嶋正行元経産相や小沢鋭仁元環境相らの起用が取り沙汰されている。
鉢呂氏は、東京電力福島第1原発事故を受けたエネルギー政策の見直しを所管していた。野田政権は原発事故への対応を最優先課題と位置付けており、停止中の原発再稼働をめぐる政府の判断や、地元自治体との今後の調整にも影響を与えそうだ。
鉢呂氏は10日午後7時から、都内の衆院議員宿舎で首相と会談し、辞表を提出した。その後、経産省で記者会見し「一連の発言で国民とりわけ福島県民の皆さんに、多大な不信の念を抱かせ、心からおわび申し上げたい」と謝罪した。
これに先立つ10日昼過ぎ、鉢呂氏は都内で記者団に対し「全力を挙げて事故の早期収束に向けて頑張りたい」と述べ、続投に意欲を示していた。
しかし、民主党の前原誠司政調会長は都内で記者団に「大変ゆゆしき問題だ」と指摘。閣僚経験者も「緊張感が足りない。野田内閣が問われる」と述べるなど、党内からも早期辞任を求める声が上がっていた。
鉢呂氏は8日に第1原発の周辺を首相とともに視察。8日夜に帰京した際、都内の議員宿舎で記者団と懇談中、防災服の袖をすりつけるしぐさをし「放射能をうつしてやる」などと発言。9日の記者会見では、地元の自治体の状況について「まさに死の町という形だった」と述べていた。
鉢呂氏の在任期間はわずか9日間で、民主党政権下での任期途中での閣僚辞任は7人目。
「死の町」発言、怒り通り越した悲しさ
東京電力福島第1原発の周辺住民らの心の傷に塩を塗った。野田内閣発足間もない鉢呂吉雄経済産業相の「死の町」発言。本人は前日の8日、首相に同行し現地に足を運んだばかり。視察後には報道陣相手に「放射能をうつしてやる」といった言動も発覚。避難住民に怒りを通り越した悲しみだけが残った。
「そんな発言は信じたくない」。埼玉県加須市で避難生活を送る福島県双葉町の農業林一栄さん(74)は、第1原発のすぐそばで長年ホウレンソウを栽培してきた。
「豊かな自然の恵みがこれまでの私の生活を支えてくれた。軽はずみな発言をせず、政府は復興に向けた努力をしてほしい」
双葉町から猪苗代町に避難した天野正篤さん(73)は「放射線量の高さから、現実的に戻るのは難しいと覚悟している。『死の町』と言うなら何年後まで戻れないのか」といら立ちを見せた。
タグ:鉢呂吉雄